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指切断事故としてしばしば相談を受けるケースでプレス機械に指を挟まれるという事例があります。
裁判例でも例えば以下のような事例があります。
①事業場において就業中、労働者の左手指がフットペダル操作式のピンクラッチプレス機に挟まれて左示指末節骨開放骨折及び左中指末節骨開放骨折の傷害を負った事例(東京地裁令和4年3月30日)。
②解体工事現場で作業をしていたところ、上記解体工事現場において、会社の従業員が操縦する重機の先端に取り付けられたアタッチメントとコンテナの縁との間に右手を挟まれ、右第2指切断の傷害を負った事例(東京地裁令和4年2月4日)。
指切断の事故に遭ったらまずは適切な医療機関にて治療を受けることが重要です。治療費は労災保険から出るように手続きをとる必要があります。労災の申請は会社が行ってくれる場合もありますが、会社が協力的でない場合には、最寄りの労基署に問い合わせをして必要書類を確認し、必要書類をそろえて労災の申請をします。主治医において症状固定(症状は治療を加えても良くも悪くもならないと判断される状態)と診断された場合には、障害(補償)給付の申請をすることになります。
以下の内容で整理されます。
等級 | 障害の程度 | 基礎給付日額に基づく補償の内容 |
第3級の5 | 両手の手指の全部を失ったもの | 245日分(年金) |
第6級の7 | 1手の5の手指又は母指を含み4の手指を失ったもの | 156日分(年金) |
第7級の6 | 1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指を失ったもの | 131日分(年金) |
第8級の3 | 1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指を失ったもの | 503日分(一時金) |
第9級の8 | 1手の母指又は母指以外の2の手指を失ったもの | 391日分(一時金) |
第11級の6 | 1手の示指、中指又は環指を失ったもの | 223日分(一時金) |
第12級の8の2 | 1手の小指を失ったもの | 156日分(一時金) |
第13級の5 | 1手の母指の指骨の一部を失ったもの | 101日分(一時金) |
第14級の6 | 1手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの | 56日分(一時金) |
労災保険給付が降りた場合、同時に会社に対して損害賠償を請求することが可能となります。すなわち、労災事故がなぜ起こったかというと、会社が労働者に対する安全配慮義務を尽くしていなかった場合が多いからです。休業損害についても休業補償給付では十分に補償されているわけではないため、別途請求することが必要になります。その他にも、治療費(自己負担分)、通院交通費、休業損害、慰謝料、逸失利益などが損害の項目として挙げられます。
会社に対して損害賠償を請求する際に、会社の主張として主に2点があります。
1点目は、会社には安全配慮義務を尽くしていたので賠償する義務はないというものです。
被災労働者が会社に対して損害賠償を請求するためには、会社が従業員に対する安全配慮義務を尽くしていなかったことを被災労働者において主張立証する必要があります。例えば、定期点検をしていなかった、安全装置が外されていた、2人で実施する必要がある作業を一人でやらせていたなどが挙げられます。安全配慮義務違反を主張するためには、労働安全衛生法やその規則の違反があればその主張をしていくことになります。その際に重要な点は、被災労働者において、会社がいつどこで何をしなければいけなかったのかを具体的に主張立証する必要があるということです。労災が認定されていた場合、労災の認定は会社に安全配慮義務違反があるという主張の有力な証拠になるのは確かです。ですが、労災の認定はあくまでも業務と負傷との間の因果関係を国が認めたということにあり、会社に安全配慮義務違反があったことまで認めたものとは限らないということになります。もっとも、労災の認定において作成される復命書には、具体的な作業違反や用法違反などについて言及している場合もあり、その記載は会社に安全配慮義務があったことを裏付ける有力な証拠になります。
したがって、会社において安全配慮義務違反がないことを主張して被災労働者の主張に対して全面的に争うのであれば、被災労働者においても弁護士に相談して具体的な安全配慮義務違反の主張をしていく必要が出てきます。
2点目は、被災労働者に過失があるというものです。
例えば、被災労働者において、事故当時考え事をしていた、マニュアルの確認をしていなかった、安全装置が外されていたことに気付かなかったなどを会社が主張してくることが挙げられます。
もっとも、労災事故の防止はまず会社が率先して行う必要があります。会社に備えつけられた機械などの操作に詳しいのは会社の方であることがほとんどです。被災労働者も会社の担当者から機械の操作を教わって作業を始めることが多いです。会社の工場にある機械においてその維持管理は会社の責任においてなされることは当然のことです。
また、労災事故における損害賠償の問題においては労働者保護という側面が強調されています。会社と被災労働者では経済力に差があることが多いですし、被災労働者は被災により損害を被っていてその影響が終生続くこともあることからその生活を保護する必要性が高いからです。
したがって、実際の裁判例においても、労働者に5割以上の過失が認められるケースは多くはなく、過失が認められたとしても1~2割程度にとどまるケースが多いと考えられます。
労災後の生活の補償を考えると会社から適切な損害賠償金を受け取ることが必要なケースも多いと思います。手指の切断に関わらず労災事故に遭われた方の法律相談を随時受け付けております。気になることがありましたら当事務所宛に遠慮なくご連絡ください。この文章は弁護士北上紘生が作成しました。
この記事の最終更新日 2023年3月23日 執筆者: 弁護士 大橋昭夫
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